福田が雑誌やパンフなど色々なところに書いたものです。
『いたしかたない人』と言うと、私は父親を思い浮かべる。
別に父がどうしようもない人だということではない。
掃除好きな、いや、きちんと整理整頓された状態を好む父親。
私は小学校の高学年になるまで、
どこの家でも掃除は父親の仕事なのだと信じていた。
また、母の話では、父は毎日飲んで酔っぱらって帰ってきていたのに、
私が生まれたのを機に外で酒を飲むのをやめたそうだ。
確かにいつも計ったようにきちんと時間通りに帰って来ていた。
必ず家族と一緒に食事をする父。
私はそれがどこの家庭でも当然なんだと中学まで疑っていなかった。
しかも父は家庭のために転勤を断った。
出世よりも家庭を大事にするそんな父を私は今でも尊敬している。
しかし、誰にでも何か困った部分があるように、
うちの父親にも問題があった。
父は健康マニアなのだ。
父は健康にいいというものがあると必ず試していたように思う。
サラダにはドレッシングではなく、
リノール酸が多く含まれているナントカ油、
しかも翌週には違う油を子供に勧める。
料理も薄味、ちょっとでも味が濃いと食べない。
着色料なんか入っているものは絶対に駄目。
育ち盛りの子供にはたまったものじゃない。
だから母は父用に別の料理を作る。
しかし一番被害を被ったのは誰かにニンニクがいいといわれて
ニンニクをスライスして炒めたものを食べ始めた時だ。
とにかく臭い。家中が臭い。
特にトイレ。オシッコがとんでもなく臭う。
これにはまいった。
おかげで私は25メートル潜水できるようになった?
そんな父も定年を迎えた。
ありがたいことに飲んだくれの三十路の息子に、
今でも「酒は頭が悪くなるぞ」と注意してくれる。
もともとそんなに良くないことを父は知らないらしい。
もしかすると、それが父の一番いたしかたないところかもしれない。
(「いたしかたない人々3」パンフより)