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脚本家で 演出家で 劇団座長、福田卓郎のOfficialサイト

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福田が雑誌やパンフなど色々なところに書いたものです。

春です。街にはフレッシュマンの姿が目立ちますが、実は私も過去に
就職活動らしきものをやったことがあるのです。
といっても実質的には試験を受けただけのものですが・・・・。


私はもともと就職する気などほとんどなくて、
親に対するポーズとして試験くらいは受けておこうと思っていた。
でも受けていれば「頑張ったけど駄目だった」と、芝居を続ける言い訳になる。
だから受験先はどこでもよかったのだが、どうせなら芝居に関係したところをと
東宝の演劇演出部を受けることにした。


そんな心構えだから、試験の前日はは友人と酒を飲んで
したたかに酔ってしまった。
翌朝、目を覚ますと既に9時40分、試験は10時からだ。
もう間に合わない。
試験会場は有楽町の宝塚劇場のビルにある東宝演劇部。
急いでも40分はかかる。
そのままばっくれてしまおうかとも思ったのだが、
その頃の東宝演劇演出部は学校を指定して求人を行っていたので、
私がこのまま連絡もしないと学校の印象が悪くなってしまう。
来年受験する後輩のためにもとにかく行くだけは行こうと有楽町に向かった。


宝塚劇場の前に着いたのは10時20分。既に論文の試験が始まっている。
そこで私は病気になることにした。
電話をかけ‥‥
 「あのぉ、風邪をひいて熱が出て病院に行ってたんですが、
  時間がかかってしまって、今終わったんですが・・・。
  これから向かってもよろしいでしょうか?」
 「いいけど、今どこにいるの?」
 「えっ・・・池袋です」
真下にいるくせにいい度胸だ。しかし家の側の病院にしないと真実味がない。
池袋から来たということにするには20分くらい時間をつぶさなくては・・。


そこで、私はマクドナルドに入り、
いかにして病人に見せるかということを考えだした。
ティッシュを鼻に摘めて鼻づまりの声にし、目をこすって充血させる。
今考えれば、何もそこまでして・・・と思うのだが、その時は真剣だった。


果たして、その試験の結果は‥‥。
なんと、熱を出しているのに遅れてまで受けに来たという熱意をかわれて
受かってしまった。
恐ろしいことだ。
しかも私は「屋根の上のバイオリン弾き」などの作品にかかわった後、
疾風DO党を旗揚げするため1年足らずでやめてしまったのだ。
後輩のためにと思って受けに行ったくせに、
一番後輩のためにならないことをしてしまった。


東宝の皆さん、日芸の後輩諸君、ごめんなさい。でも、もう時効でしょ。
                (公演パンフより)