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脚本家で 演出家で 劇団座長、福田卓郎のOfficialサイト

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福田が雑誌やパンフなど色々なところに書いたものです。

数年前は「これは絶対おもしろい」と呟きながら原稿用紙に向かっていた。
そして月日が経ちシナリオが仕事になって「エンドマークのつかないシナリオはない」
と呟きながらワープロに向かうようになった。
いつの間にかシナリオを書くことを
楽しいことだと思わなくなっていたのだ。そんなある日、僕は拉致?された。


始まりは一本の電話だった。
プロデューサーの梅川氏がスケジュールを聞いてきたのだ。
その時は連続ドラマを書き始める直前で
決してスケジュールに余裕のある状態ではなかった。
「何の映画なの?」と聞いても梅川氏は電話口でモゴモゴしている。
「実は、トイレの花子さん」「え?」「トイレの花子さん、という映画なんだ」
「本当にその題名?」「ああ。監督は松岡錠司」「……」
松岡監督がいかにもお子様向けっぽい題名の『トイレの花子さん』という映画を
撮るというのもおもしろいなあと漠然と思ったのだが、
とりあえず時間的なこともあり返事は保留した。


しかしすぐに「時間がないんだ。
松竹には話を通した」と梅川氏から折り返しの電話。
おいおい、と思っているうちに調布のホテルでカンズメにされてしまった。
もちろん最終的に面白がってノコノコ出かけていったのは
自分のほうなのだが……。


松岡監督とは大学時代の同級生だ。
新入生ガイダンスでソフトボールのチームを組んだときはバッテリーだった。
僕がピッチャーで彼がキャッチャー。しかし今回は彼がピッチャーで
僕がキャッチャーの役割。
監督の頭の中にある物語を受け止め具体化して行く。
学生時代の友人なのでへんに腹の探りあいをしなくてすむのが助かる。
共同で脚本を書くときはこれが一番ネックになるからだ。


登場人物のキャラクターや設定を確認し、台本に取りか かった。
しかし「この映画はお子様向け映画である」という認識はなかった。
大人が見ても面白い映画(もちろん子供が見ても)にするつもりであったし、
そのことを改めて確認し合う必要もなかった。松岡が監督するということは
当然そういうことなのだと思っていたからだ。


この台本を書く上で一番気になったのは、自分の書くセリフを監督が
受け入れるだろうかということだった。
監督は今まで自分で台本を書いてきたし、それが松岡錠司の世界を
つくりだしている。その世界を大切にしたいとは思うが、
僕が書くからにはそれを壊したいとも思う。
そのかねあいが一番難しかった。


しかし、その懸念をよそに台本はスムーズに完成した。
決定稿に至るまでの過程も大きな問題はなかった。
書いたものを遠回しにけなされることに慣れかかっていたので、
素直に面白いと受け入れられて面食らったくらいだ。
さらに、様々な問題で中止になる映画が多い中で、
この作品は夏のロードショウ公開となった。
そして僕はまたシナリオを書くことを楽しいと思うようになった。


派手なSFXはないけど、
これは小学生達のリアルな世界を描いた心理ホラーであり、
その世界を垣間見る大人たちにある種の戦慄を与える映画だと思う。
あなたが映画を観てそう思ってくれたなら、それはつまり『トイレの花子さん』が
松岡監督と僕とのキャッチボールがうまくいった幸福な作品だという証拠である。
               (「月刊シナリオ」掲載)